教育改革2020

どうする・どうなる!?2020年。保護者視点で分析する教育改革。調べてわかったことを中心にまとめています。

高校学習指導要領改訂と今後求められる人物像

 

 2022年度から年次進行で切り替わっていく予定である高校の学習指導要領改訂案が公表されました。

 

 2020年教育改革のひとつの大きな柱である高大接続改革は、①大学入学者選抜改革、②大学教育改革、③高等教育改革の一体的改革によって推進されます。徐々にかたちがはっきりしてきた①と②に加え、③の内容が今回公表されたことで、ようやくその全貌が明かとなりました。

 

 

 

▪ 目次

 

 

学習指導要領改訂後に求められる生徒の力

 改訂案のポイントは以下のようになっています。

新指導要領では、小・中の次期指導要領の流れを踏まえ、①知識及び技能②思考力、判断力、表現力等③学びに向かう力、人間性等――の3つの柱で、各教科での学びを再整理し、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を求めた。例えば、▽情報を的確に理解し効果的に表現する▽社会的事象を資料に基づいて考察する▽日常や社会の事象を数理的に捉える▽自然の事物・現象を観察・実験を通して科学的に探究する――などの学習が、各教科・科目の中で示された。

 

また、言語能力や情報活用能力、問題発見・解決能力などの学習の基盤となる資質・能力、現代的な諸課題に対応するために必要な資質・能力の育成に向けて、教科等横断的な学習を充実させるなどし、習得・活用・探究のバランスを工夫するのが重要だとし、そのための各学校でのカリキュラム・マネジメントの確立を求めた。

 

 当初の予想どおり、小・中過程の次期改訂の流れを汲んだ新しい学力観とも言うべき大きな変化を見せています。また、これまで高校課程は伝統的に地域の教育委員会や各学校にその指導方法について大きな裁量をもたせてきましたが、高校の授業料無償化等を背景に「どのように」学ぶかも細かく例示したため、分量は文字数ベースで現行の約1.5倍になっているのも大きなポイントです。こんなところにも国の本気度がうかがえます。

 

求められる人物像の変化 

 小・中から、もっと言うと、就学前教育の段階から「主体的・対話的で深い学び」が一気通貫で行われるようになることがはっきりした今回の学習指導要領改訂ですが、その背景には学力だけでなく学生生活全般における実績や総合的な人間性を評価するアメリカ型評価への転換があるように思います。

 先日も、母校アメリカ大学の入試担当者(アドミッション・オフィサー)を担っている在日アメリカ人弁護士の方が、現時点での、日米の大学が求める人物像の違いについて以下のような記事を書いていました。

 課外活動とエッセイを重要視されることについて、私と同様に日本の高校生は大きな違いを感じるのではないだろうか?この二つを通じて、受験生の人物像を見出したいと大人たち(大学側)は考えている。

 

 課外活動とはボランティアやスポーツ等を言うのだが、ただメンバーとして活動していたことが評価されるのではなく、リーダーシップやコミュニケーション能力、好奇心や社会性等様々な角度から評価をされる。大学進学を考えるアメリカの高校生は入学すると同時に、評価の対象となるこれらの課外活動をどうするかの準備を始める。(略)

 

 ところが、日本では高校三年生になるとクラブ活動を一切辞めて受験勉強に専念すると聞いた。実際にインタビューでも耳にするが、これはアメリカの大学への進学を目指す高校生にとっては実にマイナスである。なぜなら、前述のように課外活動を通しての評価がえられないことになるからだ。平たく言えば、受験のためにその活動を諦めるならば、高校生活を通して費やしてきた時間はそれほど大事なものではなかったのではないかと評価されてしまうだろう。(略)

 

 課外活動に加えて、エッセイではバックグラウンドや目標、思考や嗜好、モチベーション等を自分なりの表現で伝えることを求められる。

 

  こうしたアメリカ型の人物評価が一定の成果をおさめていること、また、通底している精神 —— 過度に学力偏重型な受験競争にNOをつきつけることで経済的条件が異なる生徒に平等な受験機会を与え、結果的に多様な人材の獲得につながること —— が時代の要請にもマッチしていることからでしょう、伝統的に知識や技能の詰め込みが賞賛されてきたアジア諸国の人物評価観にも次第に変化が生じています。

 

アジア先進国・地域の状況(先をいく台湾・韓国と追いかける日本)

 先日、別の記事でも参照した『大学入試改革 海外と日本の現場から』には、台湾と韓国の状況が取り上げられています。

 

 こちらの本によると、高校3年生の中頃と卒業後という大きく2回の受験タイミングがある台湾では、初回がいわゆるAO型・推薦型入試となっており、約半分の生徒がその方式で、残った半分が2度目のチャンスで一般入試方式となっています。アメリカ型の人物評価が割合にして50%程度になっている、ということです。

 また、韓国はというと、状況はさらに進んでいます。最難関大学であるソウル大学では、2015年度入試で全体の募集定員に占めるAO型入試の割合は75%。すでにAO型入試のみで選抜を行っている学科も少なくないとのこと。

 

 対する日本はどうでしょう。 

 国立大学の2016年度入試では、AO・推薦入試での入学者の割合はおよそ15%。国立大学協会は「国立大学の将来ビジョンに関するアクションプラン」の工程表の中で2021年度までに推薦入試やAO入試などによる入学者を入学定員の30%を目標に拡大すると明記しましたが、それでも先に挙げた台湾・韓国には水をあけられています。

 国立大学のフラッグシップ校たる東京大学も推薦入試の取り組みを継続していますが、合格者数は69名と2年連続で減少。募集定員に対してわずか2%程度と目標値まではまだずいぶん距離を感じます。

 東京大学の推薦入試枠は各学校に対して男女1名ずつ、計2枠が与えられています。科学オリンピックへの出場実績等、突出した能力をすくいあげたいという目的ももちろんあるでしょうが、アドミッション・ポリシーから鑑みれば、都市部に集中しがちな学生を全国津々浦々に広げることによってキャンパスの多様性を確保したいという思いも強いはずです。その観点からすると、現状の取り組みスピードは残念ながら遅すぎると言わざるをえません。

 なお、東大の取り組みについてはこちらの記事がとても詳しくておすすめです。

 

高大接続改革後に評価される能力とは

 最後に、一連の高大接続改革によって、今後日本で求められる人物像がどのように変わるのかを予想したいと思います。

 まず、学力(偏差値)至上主義からの脱却。これはもう既定路線と言っていいと思います。大学入学の「必要十分条件」だった学力の価値が「必要条件」にまで相対的に価値を下げ、それだけでは突破できない時代に入っていくものと考えます。これまでのように、各段階で有名塾に通塾し、効率的に点数を稼ぐような都市部で確立された受験工学だけでは通用しなくなっていくことでしょう。厳密にいうと、学力だけの枠も残っていくのかもしれませんが、徐々に枠が狭まっていくのでレッドオーシャン化は止まらないと考えます。

 その代わりに重要になってくるのが、他の先進国のように、校内活動であり課外活動での実績となるわけですが、残念ながらアメリカのようにアドミッション・オフィスに十分な予算も人員も充てられているわけではない日本では、ひとりひとりにしっかりと時間をかけた評価はできないものと想像します。 どうしても、他人にとって客観的でわかりやすい実績は必要になってくると思います。

 さらには、生徒固有のオリジナル性の高いストーリーとなっているかどうか。短い選考時間の中で確実に目につくためには、動機の納得性の高さ、学びの取り組みの継続性、志望する大学の学部や学科のなかでさらに発展するイメージやそのポテンシャル、こういったところを魅せる必要があると考えます。

 これまでデメリットとされがちだった、地方出身であること、マイノリティであること、学校の成績では評価されなかったけれど個人的に打ち込んできたこと…。これらの要素が選考者の多様性重視をくすぐる「フック」として機能するのようになる日は近い、そう個人的には読んでいます。

 そのための装置が、今回改訂される学習指導要領でも注目される教科横断型の「課題研究」であり、学修のエビデンス(履歴)を記しておく「eポートフォリオ」の運用、となっていくはずなのですが、記事が長くなったこと、また、まだ国からも確たる方針が公表されていないことから、またいずれ別の記事で追いかけてみたいと思います。

 

あわせて読みたい